後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「それでいい。ジェンセンが何調べてたのか魔術師の側にいて随時彼女の質問に答えてくれれば」

 まったく、とエリーシャは首を振る。

「ジェンセンもゆっくりしていけばいいのに。聞きたいことが山ほどあったのに逃げられたわ」
「父はもう行ってしまったんですか?」

 皇帝陛下の直属。そう言うからには、きっと何か重要な任務についているのだろうけれど――それについては聞きそびれてしまった。

「うん。何か調べることがあるって言ってたけど――わかんない」

 それから、エリーシャは三人に言う。

「とにかく、当初の予定通りここに一週間滞在ってわけにもいかなくなった――今日、これから出発するわ」

 エリーシャは首を振った。

「アイラにはきついだろうけれど、なるべく傷に響かないようにするからちょっと我慢してちょうだい」

 アイラは無言だった。本当は後宮になんて戻りたくない。政治抗争に巻き込まれるのも、化け物に襲われるのも嫌だった――けれど、後宮の外にいるのがアイラにとって危険だとなれば戻るしかない。

 平凡な人生を歩んでいたはずなのに、どこでどうずれてしまったのだろう。
 出発まで休むようにと言われたけれど、休まらないであろうこともよくわかっていた。
 
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