後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 ゆらり、とその場の空気が変わるのがアイラにもわかった。エリーシャは眉を寄せて厳しい顔になる。彼女の口角が下がって、不機嫌そうな表情になった。

 アイラはめったに聞くことのない皇帝の声が指輪から聞こえてくる。その声は、宮廷魔術師をやめて、皇帝の密偵となるように命じていた。

「つまり?」

 命令を聞き終えたエリーシャは、器用に片方の眉を上げる。

「あのぅ、エリーシャ様」
「ん?」
「本当に皇帝陛下の命令なんですか? うちのばか親父が何か細工したとは思わないんです?」

 率直なアイラの問いに、エリーシャはくすりと笑った。

「大丈夫――タラゴナ皇帝家は魔術師としての力も持っているから。わたしも初級魔術くらいは押さえてるわよ。そうでなきゃ、魔術書読めるはずないでしょ――わたしが判断する限りでは本物」
「……」

 アイラは自分の父を疑り深い眼差しで見る。

「まあそんなわけで、ダーレーンとタラゴナを行き来しているというわけですよ、エリーシャ様」

 アイラにはかまわず、ジェンセンは勝手に話を進めていた。
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