後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「何かわかった?」
「なぁんにも」

 ジェンセンは大仰な仕草で肩をすくめる。

「なかなかダーレーン本国に入るというのは厳しくてね。言葉も違うし、苦労はしますよ――でも」

 思わせぶりに彼は声を潜める。

「タラゴナに手を伸ばしたがっているのは事実ですな――後は、セシリーとかいう女もダーレーン出身です。もとはダーレーンで口寄せの巫女をしていたとか」
「口寄せの巫女?」

 耳慣れない言葉に、アイラはまた首をかしげる。

「ええとね、タラゴナには存在しないけど、ダーレーンにはいるのよ。死者を乗り移らせて、その声を聞かせてくれる巫女――神殿や教会に属しているわけじゃないから巫女っていういい方も違うのかもしれないけど」
「なんで、そんな胡散臭い女がタラゴナ帝国に入ってくるのよ」
「――正式なルートでは無理でしょうな、皇女様」

 ふてぶてしい父親の後ろ頭を殴り倒してやろうかと、アイラはスリッパを握りしめた。

「ただし、ダーレーンの貴族の手引きがあるとなれば、話は別です。適当な貴族の娘という身分を作ってやれば、国境を越えるのは簡単だ――たとえそれが下級貴族でもね」
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