後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
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「――背筋をまっすぐ伸ばせ。エリーシャ様はそんな風には歩かないぞ」

 ぴしり、と鞭の先が床をうつ。まさか本当にそれで殴られるとは思わないが、アイラは思わず身をすくませた。

「顎を引きすぎている! 時間がないんだ、さっさとやれ!」
 イヴェリンは鬼だった。

 騎士団所属――並の男よりはるかに剣の腕が立つ――ではあるが、もともとは貴族の令嬢だ。行儀作法に関しては、アイラのはるか上をいく。おまけに、アイラよりエリーシャと過ごした時間はずっと長いのだ。

「笑え!」
「笑えませんよ!」

 アイラの唇がひきつった。

 今、アイラが身につけているのは皇女のドレス。それも公務につく時の正装用だ。ゆるやかなラインの白いドレスの上に、金糸がたくさん使われたずっしりとした上衣を羽織る。

 さらにその上に、宝石をじゃらじゃらと――ちなみに本物だ――つけているのだから落ち着かないことこの上ない。
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