後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「俺を甘く見ない方がいい、皇女殿下」
「な――何を」

 一歩後退したダーシーは、アイラを見て笑う。覇気のない男だと思っていたのに、エリーシャにもそう聞いていたのに、そうしてみるとずいぶん印象が変わった。

「言葉の通りですよ、皇女殿下」

 まさか、見破られた? アイラの背中を冷たいものが流れ落ちる。

「ど、……どう解釈したらいいのか、わかりませんわ」
「わからないならそれで結構。あなたがわたしをどう見ているのかわからないほど、愚か者ではありませんのでね、わたしも」

 彼から感じるこの感情は何なのだろう。

 扇を持つ手が震えそうになるのを必死にこらえながら、アイラは彼の内面を探り出そうとする。

 鋭い、何か――まるで殺気にも似た。すっと、ダーシーの表情が元に戻る。そうすると、アイラに向けて放たれていた殺気のようなものも消え去った。

「クリスティアンのことが忘れられませんか、エリーシャ様?」

 ふいに出された名前が、アイラをまた揺さぶった。
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