後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 クリスティアン。

 エリーシャの婚約者だった従兄弟――二年前に惨殺されて発見された。
 エリーシャなら、どう答える? 

「……忘れられるはず、ないでしょう? ――あんな――あんな風な――」

 イヴェリンもゴンゾルフも、詳しいことは教えてくれなかった。惨たらしい姿で発見されたということ以外。

 エリーシャが彼を深く愛していたというのは、当時から彼女に仕えていた仲間の侍女たちの証言。

 アイラは扇を閉じた。手にしたそれを強く、握りしめる。折れてしまいそうな勢いで。

「忘れられないと言ったら何か変わるのかしら? わたしは皇女――だから、自分の結婚問題くらい、自分の感情と切り離してみせるわ!」

 アイラは走り去った。ダーシーの顔に扇を投げつけて。

 庭園に一番近かったイヴェリンの部屋に飛び込んで、ようやく大きく息をつく。驚いたように机に向かっていたイヴェリンが顔を上げた。
 
 
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