後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「……あの……クリスティアン様……」

 エリーシャの眉が寄った。急に切なそうな表情になる。

「クリスティアンが、何か?」
「――名前を出されました」
「誰に?」
「ダーシー様に、です」

 あの時感じた恐怖を、どう説明すればいいのだろう。一瞬にして放たれた殺気のような――何か。そしてそれを瞬時に消して見せた彼。

 クリスティアンのことが忘れられないのかと問うダーシーは、アイラにとてつもない恐怖を感じさせた。

「それで、あなたはどう返したの?」
「――忘れられる――はずなどない――と」

 扇を叩きつけて彼の前から走り去った。エリーシャならどうするのだろうと考える間もなく。

「……そうね、忘れられない」

 エリーシャは、胸の前で両手を組み合わせた。

「――でも、だからと言って――それに甘えるつもりも、惨めだと嘆くつもりもないわ」

 アイラの行動は正しかったのだ――と、エリーシャは笑う。レヴァレンド侯爵家への探索についてはエリーシャが手をうつことになった。
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