後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 ゆったりとした動作で、彼がお茶の準備を調えていくのをエリーシャは黙って眺めている。

 それからカップが目の前に置かれるのを待って、改めて口を開いた。

「あなたがわたしに結婚を申し込もうとしたのは、帝国を乗っ取るため? 女帝の夫の地位がそんなに欲しかったの?」
「――それが欲しかったのは、父ですな。女帝の夫の父となれば、ある程度の権力を握ることができますからね」

 すました顔で、ダーシーは薫り高いお茶の入ったカップを手に取った。

「父が、セシリーとかいう女と密接な関わりを持つようになったのはここ一年ほどのことです。あの女、気が付いたら我が家を乗っ取っていましたよ」

 ふぅ、とダーシーはため息をついた。

「最初はわたしも抵抗していた――ですが、彼女の力は強かった。自分の意志というものは完全に失われていましたよ」
「それで?」
「彼女の支配がゆるみ始めたのは、ここ一月くらいのことでしょうか――前回あなたにお会いした時は、彼女の支配がゆるんでいた。あの時は大変失礼いたしました」
「ああ、あれ」

 けろりとしてエリーシャは言った。前回顔を会わせたのはエリーシャではなくアイラなのだけれど、影武者のことまで口にする必要はない。
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