後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 ダーシーは、エリーシャの婚約者としてその一画に入ることを許された。二人の婚約はまだ公式発表はされてはいない。皇帝であるルベリウスと皇后であるオクタヴィアが許可を出し、後宮の住人には知らされている。

 ダーレーンと縁の深いセシリーが行方をくらましたことを皇后が知っているかどうかはアイラたちにはわからなかった。レヴァレンド侯爵の死は賊の手にかかったものとさえ、懸命の捜査が行われている。

 ダーシーが滞在しているのは、睡蓮邸と呼ばれる池のすぐ側に建てられている離れだった。庭師たちが丁寧に世話しているから、季節になると、この池は見事な睡蓮の花で覆われるのだ。

「これはこれはエリーシャ様! そのようなお姿を拝見できるとは!」

 大仰な仕草で、エリーシャの前に膝をついたダーシーはと言えば、こちらもまた白いシャツにゆったりとした黄緑のズボン、ズボンより少し濃い色合いのベストといたって気楽な格好である。

 エリーシャが素早く後退するのを見て、アイラとダーシーは首を傾げた。
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