後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 一日のことだが、はなはだ不安だ。なにしろ、アイラがエリーシャのもとにあがって以来、エリーシャが飲酒しなかった日はほとんどといっていいほどなかったのだ。

「大丈夫でしょう、アイラ。あの方は愚か者ではないのですよ」
「……イヴェリン様、そのしゃべり方怖いです」
「お姉さまと呼べと言っただろう!」

 イヴェリンの装っているふわふわとした雰囲気が瞬時にして消え去る。ひぃっと小さく悲鳴を上げたアイラは、慌てて言い直した。

「ごめんなさい、お姉さま」
「わかればいいのよ」

 にっこり。
 その微笑みが怖い。アイラの背中を冷たいものが流れ落ちる。

 休むことなくてくてくと歩き続け、二人は暗くなろうという頃、二つ離れた町にたどり着こうとしていた。足下がだいぶ見えにくくなっている。

「……アイラ」

 ひそひそとささやく

「何かしら、お姉さま」

 こうなればヤケだ。アイラも、イヴェリンのことをお姉さまと呼んで、仲のよい姉妹のように装う。
< 235 / 394 >

この作品をシェア

pagetop