後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「そろそろダーレーン王国との国境ですねぇ」

 慌ててアイラは話題を変える。

「そうだな、気を引き締めていくか」

 口元を引き結んだイヴェリンは、急ぐようにアイラに合図した。

 † † †

 国境を越えるのはそれほど難しい話ではなかった。ダーレーン国内に嫁いでいる古書店の次女、というのは実在する人物である。アイラとイヴェリンは、彼女の姉妹の身分を借りていた。

 本物の古書店の長女と三女は、今日も元気に仕事に励んでいるはずだ。

「……何も変わらないですねぇ」

 アイラはきょろきょろと周囲を見回す。

「お前は馬鹿か。国境越えたとたん何が変わるというのだ。まさか国境越えたとたん、死者がうろうろしているとでも思っていたのか」
「そこまでは思ってないですけどー」

 アイラはもごもごと言った。実を言うと、イヴェリンが言ったようなことを想像していたのは口にしないことにしておく。
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