後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「いわれてみればその通りですね。ここにはいませんね。どうしたのでしょう」
「聞いてみようか」

 すいっとイヴェリンは立ち上がった。

 いつもの眼鏡をかけた厳しい容姿とは違って、今は眼鏡もはずして穏やかな化粧を施した顔は、どこから見ても平均より少しきれいなだけの町民だ。

「あなたはここで待っていなさい」

 どうするつもりなのかとアイラが見守っていると、すぐ近くのテーブルに座っている男たちに声をかける。
 
 しばらく見守っていると、イヴェリンはウェイトレスを呼んでそのテーブルにビールを運ばせていた。

 それから和やかな声に送られて、アイラのいるテーブルに戻ってくる。

「首に黄色い布を巻いているのは、セシリー教団の信徒だそうだ。信徒は酒は飲まないらしい」
「そういうものなんです?」

 アイラは記憶を掘り起こそうとした。エリーシャの婚約者であるダーシーはどうだっただろうか。その父親であるレヴァレンド侯爵は?

「国境を越えると、いろいろ変わるものだな」

 鶏の煮込み料理にパンを浸して食べながら、イヴェリンは嘆息した。
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