後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「さて、ここの裏口はどうかな」

 たいしたことではない、という口調で言ったライナスは裏口の門に手をかけた。そしてそっと押してみる。

 夜の闇の中、思っていたより大きな音で門のきしむ音が響く。
 思わずアイラがびくつくと、ライナスは低く笑った。

「大丈夫だ。この家の使用人たちはそれほど訓練されているというわけじゃないらしい」

 門がきしむ音がしても、誰も駆けつけてこようとはしなかった。

「どこから入るんです?」
「……こっちだ」

 ライナスは家の裏側の窓を一つ一つ、押してみている。鍵のかかっていない窓を一つ見つけると、そこから中にアイラを押し込んだ。それから自分も身軽な仕草で窓から入り込んでくる。

「……地下室か、それとも上階か」

 家の中は静まりかえっている。

「上はこの家の人たちの寝室じゃないですか?」
「……だよな」

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