後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「ユージェニーは、セシリーには用がないからじゃないですかね」

 アイラの父である魔術師が言っていた。ユージェニーは自分自身のことにしか興味がない――と。自分の若さと美貌を保つために暗躍してはいるが、セシリーと対立する理由はないはずだ。

 八十過ぎてあの美貌なら、十分ではないかとアイラは思うのだけれど。

「――まあ、せっかくの情報だ。これは持って行くぞ」

 ライナスは包みをポケットにしまい込む。それから念のために地下室を探索する。地下室にはろくな物は残されていなかった。

 食料が少々保存されていたのと、人が集まるのに使っていたらしい部屋が一つあるだけ。部屋には美しい敷物が敷かれ、中心部には見事な女性の彫像が飾られていた。

「セシリーって人はよっぽど自分に自信があるんでしょうか」

 その彫像を眺めながらアイラは嘆息する。目の見えない人が持つ杖を手にしているところを見ると、その像はセシリーの姿をうつしたものなのだろう。

 艶やかな髪に豊かな曲線を持つ肢体。杖を持つ指の先の爪は輝いているようだった。目は固く閉じられているが、唇は柔らかな弧を描いて聖女の微笑とでも呼びたいような穏やかな表情をしている。
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