後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「ライナスとお前が持ち帰ってきたこの紙、信用できると思うか? 宿に帰った後、内容はよく確認してみるつもりだが」
「……他に手がかりもないですからねー」

 イヴェリンにしろ、アイラにしろ、密偵という仕事につくのは初めてのことだ。いつもの仕事とは勝手が違いすぎてどうしても後手に回ってしまう。

「それもそうなのだがな」

 イヴェリンの眉間の皺は、日に日に深くなっていくようにアイラには思えた。このまま行くと、戻る前にイヴェリンは十歳近く老け込むことになりそうだ。

 早めに帰らないと、老け込んだ妻を見たゴンゾルフが派手に悲鳴を上げることになるだろう。それはそれである意味見ものかもしれないが、皇女宮内に男の野太い悲鳴が響き渡る図というのもを想像すると頭が痛くなる。

「今まで得た情報と、この紙の場所をつき合わせてみるか。どちらにしても行ってみなければならないのだから」

 宿の従業員に見咎められないようこっそり戻ると、イヴェリンは灯りをつけてアイラを手招きする。その夜、二人は遅くまで地図を眺めていた。
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