後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 同情してませんよねぇ、と突っ込みそうになった言葉をアイラは飲み込む。侍女たるもの余計なことに口を出してはいけないのだ。

 何とか確保することのできた宿は、思いきり安宿だった。硬いベッドにイヴェリンは顔をしかめるが、地面で寝ることも多い身だ。必要以上の文句は口にしない。
 部屋には四つのベッドがあった。窓側から扉側へと順に並んでいる。相部屋にはなりたくないなー、とアイラは思った。

 他人がいれば、夜中に抜け出して探索に行くのが難しくなる。

「セシリーが来ていなかったとしても、これだけの人が集まっているんだ。何かあるだろう」

 イヴェリンは眼鏡をかけなおして、地図を広げる。

「アイラ、下の売店に行ってこの町の詳細な地図を買ってきてくれ」

 都もそうなのだが、各町には、全国で流通しているより詳細な地図を置いている店――たいていは宿の売店で、他に傘や包帯など旅の必需品も売っている――がある。

 二人が入った宿も、安宿ながら一階には売店があるのを二人ともしっかり確認していた。
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