後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 つまらない、とぶぅぶぅ言うフェランを完全に無視して、イヴェリンはアイラの買ってきた地図を広げた。

「先日入手した紙に記されていた場所は、この町の北にある。高級住宅街のようだな」
「また潜り込みますか?」

「そうするしかないだろう――ライナス、アイラと一緒に行ってくれ。わたしはフェランとともに夜歩きを楽しんでいるふりをして側にいる」

 やれやれ、とアイラは首を横に振る。このまま行くと、一流の泥棒になれる日も遠くはなさそうだ。

 近くで祭りがあるからか、ルーヴェインスの町もたいそう賑わっていた。酒場は店の前にテーブルと椅子を出し、そこでも料理や酒が振る舞われている。

「こっちだ」

 ライナスはアイラの腕を引いた。

「わたしたち、周囲の人たちからはどう見えているんでしょうねぇ?」
「火遊びを楽しもうとしている貴族のぼんぼんと、ひっかかった女だ」
「あんまりですよ、その言い方は」

 でもまあ、それが正しいのだろう。目立たないような格好をしているとはいえ、生まれ持った気品とか言うものは、隠しようもないらしい。
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