後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 二人が目指していたのは、貴族の屋敷だった。

「どうやって入るんです?」
「裏手に回るか? ……犬がいるな。めんどうだ。ヤるか」

 止める間もなく、ライナスは塀をよじ登り始める。彼が塀のてっぺんにたどり着く前に、わうわうと犬が走り寄ってきた。

「か……囓られちゃいますってぇ!」

 一応悲鳴を上げても、殺す努力は忘れてはいない。アイラが裏門の前でおろおろしていると、犬たちの声の調子が変わった。

「よーしよしよし、いい子だ。お前たち、おとなしくしてろよー」

 あっという間にライナスは、四頭の犬、全てを手なずけていた。

「犬の鳴き声がしたぞ」
「侵入者か?」
「いや、もう鳴いてないが……一応、様子を見に行くか」

 ライナスはアイラに身を隠しているように合図する。門から離れてアイラが身を潜めると、あっという間に周囲は静かになった。

 犬たちはライナスの前にきちんと座って、次の命令を待っている。

「あの、見張りの人たちは……」

 ライナスが顎でしゃくった方を見ると、厳重に縛り上げられた見張りが二人転がっている。

「こんなに簡単になつくんじゃ番犬の意味、ないんじゃ」

 思わずアイラは嘆息する。これで貴族の家の番犬だというのだから、不用心なことこの上ない。

「……特技だ」

 ぼそりとライナスは言うと、裏口の方へとアイラを引っ張って歩き出した。
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