後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「この部屋、本当に気分が悪くなるな。アイラ、とりあえず道を切り開くから走れ。そいつは引きずれ」
「無理ですよ。こんな重い人引きずって走るなんて」
「あのな。俺だって自分の身ぐらいは――、何か武器になるものはないか」

 パリィも気分が悪そうにしている。この部屋に入ってけろりとしているのはアイラだけで、彼女が持っているのは短剣だった。

「しかたない、こいつで何とかするか。これでさんざん殴られたんだがなあ」
 ぼやきながらも、パリィは室内に転がっていた棒を手に取る。外側から重いものを扉に叩きつけている音がして、めりめりと扉が内側に軋む。

 扉を破り、転がり込んできた敵の頭にパリィは棒を叩き下ろした。と、同時にライナスが腹を蹴り上げる。

 ぐしゃりと嫌な音がして、部屋の中に悪臭がただよう。そうしながらも、敵は動くのをやめようとはしなかった。

「……死体相手は遠慮したいんだけど」

 呆然とアイラはつぶやく。
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