後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「はあ、お久しぶりです。何とか帰ってきました」
「アイラ~、パパ、傷がいたーい」
「手当は終わってるでしょうが」

 ベリンダの手配なのだろう。ジェンセンは傷の手当をきちんとしてもらって、宮廷魔術師のローブを着ている。髪もきちんと整えてあって、いつもより清潔感が漂っているくらいだった。

 甘えてくる父親を突き放しておいて、アイラはエリーシャの側に控える。久しぶりに見たファナもイリアもきっちり身支度を調えていた。

「それで、どうなの?」

 居間に一同が勢ぞろいすると、エリーシャは真っ先に問いかけた。
 会議をする時にはおやつは必須だと言わんばかりにゴンゾルフは大量のクッキーを持ち込んでいる。最愛の妻と離れて以来、心を落ち着けるために毎日クッキーやらケーキやらを焼き続けていたのだそうだ。

 彼の官舎には常に甘い香りが漂い、騎士団員たちは毎日おやつを押しつけられていたという。菓子職人としても十分やっていけるだけの腕の持ち主だし、職人と同じ機材や材料を用いているのだから、まずいはずはないのだが。
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