後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「セシリーはダーレーンの王族をたらしこみ済みですよ、エリーシャ様」
「あら、そうなの」
「国王まではまだみたいですがね、王妃と王弟はすっかり信頼しきっているのだとか――ま、噂ですが」

 エリーシャは優雅な手つきで、ジャムを包み込んだクッキーに手を伸ばす。

 がさつな言動も多いのだが、日頃の訓練の賜というか、身に染み着いた皇族の習性というか、他人の目を意識しなければならない時はいくらでも優雅に振る舞うことができる。

「最近、王が病の床についてるって話は聞いてますか、皇女殿下?」
「いえ、そうなの?」

「それが本当は病じゃなくて毒を盛られてるらしい、というのが教団内でのもっぱらの噂です。王妃か弟か――どっちかまではわかりませんが、その気になればどちらでもできるでしょう」

 それからパリィは申し訳なさそうに頭を下げた。エリーシャは首を横に振って、彼の詫びを遮った。
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