後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「いえ、いただきますよ。殿下。昼から酒とはありがたい――おお、痛い」

 空中から床の上に転がり落ちたジェンセンは、遠慮なくグラスの方に手を伸ばす。あいかわらず転移の術は苦手のようだ。目的の場所にはなんとか到着しているわけではあるが。

「昼から飲まないでよ、父さん」

 アイラはジェンセンの手をぴしゃりと叩いた。

「えー、パパ、つまんないー」
「つまんない、じゃない!」

「はいはい、そこまで。じゃあとりあえずお酒は後回しにしましょうか。アイラ……全員分、お茶」

 エリーシャが今回は引いて、ワインの壷は端に片づけられた。

「えー、飲みたいのにー」
「そんなこと言ってもだめなものはだめっ」

 ぶぅぶぅと膨れているジェンセンにはかまわず、アイラは温めたポットに茶葉を放りこんだ。

「そろそろ仕事の話に戻ってくれる、ジェンセン?」
「かしこまりました」

 アイラの配ったお茶のカップに手を伸ばしたジェンセンは、一口飲んでから表情を真面目なものに変化させる。
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