後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「わたしは一応中級魔術師ではあるけれど、難しいでしょうね。生まれ持った素質がジェンセンやユージェニーとは違う。カーラなら――あいつはあれで腕はいいから、おそらく一つ目は可能。二つ目以降は――どうかな」

 アイラは魔術研究所にいる青年のことを思い出した。ぼうっとしている眼鏡の青年がそれほどの腕利きだとは思っていなかったけれど、冷静に考えればあの若さで研究所にいるのだから、それなりに有能でなければならないはず。

「セシリーはおそらく三つの術全て行使することができる。レヴァレンド侯爵家の使用人たちは、その実験、そして生贄となったというのがカーラとわたしの推測だ」

 部屋の中はしんと静まりかえっていた。ベリンダはそこまで言うと口を閉じてしまう。

「……実験、て?」

 最初に口を開いたのはアイラだった。

「死者の身体を操る実験だよ、アイラ。おそらく父は――割と早い時期に死んでいたのだと思う。エリーシャ様との見合いの直後くらいの時期ではないかと」

 アイラの問いに答えたのはダーシーだった。彼は前髪をかき上げて沈鬱な面もちを作る。

「わたしとの顔合わせの時は、侯爵は妙に機嫌がよかったものね」
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