後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 扉越しにすすり泣く声が聞こえてくる。後宮に上がってから、エリーシャが泣くのを見たことはなかったから、アイラの胸が締め付けられる。

 クリスティアンに関しては、皆が極力触れないようにしていたから、アイラは詳しいことは何も知らない。ただ、二年前に惨殺されたと言うことだけ。

 ひょっとすると、アイラが立ち入るべき領域ではないのかもしれない。アイラはエリーシャにとっては影武者兼護衛侍女というだけの存在。

 けれど、放っておくこともできなくて扉の前から立ち去ることはできなかった。意を決して、アイラは扉を開く。

「入ります!」

 エリーシャの返事も聞かずに室内に足を踏み入れた。真っ暗な部屋の中、エリーシャは隅に座り込んでいた。両膝の間に顔を埋めている。

「ごめん……、すぐ、立て直す……、から……」

 主に手を触れていいものかわからなかったから、アイラはエリーシャの隣に座り込んだ。

「きっと、事情があるんですよ」

 もたれかかってくるエリーシャにハンカチを差し出しながらアイラは言った。
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