後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「だって、愛し合ってらしたのでしょ? 残念ながら、わたしはそういう経験がないので偉そうなことも言えないんですけど」

 ぐすぐすという声と共にハンカチがひったくられる。

「生き返ったのなら――何で、連絡くれないのかしら」
「……わかりません」
「……素直で正直ね、あなたは」
「他に取り柄もないからしょうがないです」

 アイラが持つのは、才能はあれどぐうたらな父と、父の手伝いをするだけの能力。それにエリーシャそっくりに装うことのできる容姿くらいだ。

 自分が才能溢れる人間でないことくらいわかっているし、平凡でささやかに生きていられればいいと思っていた。エリーシャに出会うまでは。

「……いきなり部屋を飛び出して悪かったわ。戻りましょう」

 将来女帝になるための教育を受けているからなのだろうか――エリーシャの立ち直りは驚くほど早かった。

 アイラの差し出したハンカチで軽く目元を拭い、立ち上がった時にはいつもの表情を取り戻している。急ぎ足に廊下に出ると、図書室に向かって歩き始めた。
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