後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「ちょっと、何やってるのよ! 書くの大変だったのに!」
「おだまり、小娘。その指輪をお貸し。この期に及んで皇女殿下の影武者は必要ないでしょ」

 ユージェニーの命令に、アイラはエリーシャの方を振り返る。
 
 エリーシャが頷くのを見て、左手にはめた影武者を勤めるために必要な指輪を外して、ユージェニーに手渡した。

「いい、魔方陣は一時的に見えなくなっているだけ。ベリンダ、こいつを中央に置くわよ、これでわかる?」

「わかった……あんたが言うなら間違いないだろ。しかし、あんたもジェンセンも恐ろしいもんだね。わたしにはとうていたどり着くことのできない領域だ」

 ユージェニーは、アイラの指輪を床に置いた。アイラの目には魔方陣は見えていなかったけれど、魔方陣の中央、ということなのだろうか。

 床の上に置かれたとたん、指輪もまた姿を消してしまう。

「ちょっと、いつまで巻き付いてるのよ。離れてくれない?」

 ユージェニーが味方だと判断したエリーシャは、ようやくダーシーの腕の中にいるのに気づいたらしく、婚約者を邪険な仕草で押しやった。

「……命をかけてお守りするつもりでおりましたのに」
「死んで欲しい時は言うから安心して」
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