後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
決別の時
「ひとまずはダーレーンに行こう。君はここを出るべきだ」
「……わたしに帝位を捨てろと?」

 ダーシーから一歩離れてエリーシャは前に出る。悲しげな表情になってエリーシャは続けた。

「……それはできないわ。皇族として生まれた以上、わたしには責任があるもの」

 タラゴナ帝国を継ぐのはエリーシャ自身だ――たとえそれを望んでいなかったとしても。

「――それは俺を敵に回すということだ」

 クリスティアンはまっすぐにエリーシャを見つめる。同じ青を持つ瞳が正面からぶつかり合った。

 どちらも目をそらせようとはしないまま、クリスティアンは続ける。

「俺は、タラゴナ皇室の人間を全て殺す。エリーシャ、だから君は俺と一緒に来い。君だけは――殺したくない」

 言っていることは物騒だったけれど、クリスティアンの言葉に嘘はないと側で聞いていたアイラは感じた。
 
 アイラの目には、彼は普通の人間と何も変わらないように見えている。彼が死者だなんて、信じられなかった。

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