後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラにとっても意外だった。まさかクリスティアンまで皇后が殺害していたとは思わなかったから――クリスティアンの件はアイラが後宮に入る前の話だったけれど。

「そうさ。君だって殺されかけたと聞いたが?」
「それは……!」

 それ以上、エリーシャは何も言うことができなかった。

「男たちに囲まれて――暗い裏通りに追い込まれて――道連れにしてやれたのはたった五人だった。君も見たんだろう? 俺の死体を」
「……見たわ、だから……」

 エリーシャは拳を固く握りしめる。それにも気づいていない様子で、クリスティアンは何とかエリーシャを説得しようとする。

「俺以外の男と婚約したことについては不問にするよ。死人相手じゃ結婚できないからな。さあ、行こう。ここに残れば君は皇后に殺される――君を死なせたくないから、こうやって危険をおかして迎えに来たんだ」

 自分はダーレーンの新女王と結婚するというのに、勝手なセリフをクリスティアンは吐いた。そして、ゆっくりと室内をエリーシャの方へと向かって歩きながら、手を差し出す。
< 372 / 394 >

この作品をシェア

pagetop