後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「……いいえ、行けない」

 エリーシャは、クリスティアンの説得に応じるつもりはないようだった。

「わたし――あなたが生き延びてくれていたのなら、ついて行ったかもしれない。だけど、あなたが他の人を犠牲にしなければ生きていられないのなら、ついていけないわ。だって――」

 くしゃりとエリーシャは顔を歪ませた。

「わたしは民を守らなければならないのだから。交渉は決裂よ、クリスティアン。あなたがタラゴナ皇室を敵とみなすというのなら、あなたはわたしの敵……今この瞬間からね」

 エリーシャがそう言った時には、クリスティアンはエリーシャまであと数歩というところまで到達していた。

「君は来ないと言った、セシリーの言ったことは正しかったようだ。残念だよ、エリーシャ」

 クリスティアンはその場に足をとめた。

「身体から血が失われていくのを感じている間も、考えているのは君のことばかりだった。もう一度会いたい、と。セシリーが俺の魂を呼び出した時、迷わず応じたよ。もう一度君に会えると思ったから――君が敵に回るというのなら容赦しない。今、この場で君の命をもらってい――」

 再び、クリスティアンが足を進めた時、「それ」は起こった。
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