後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「エリーシャ! 俺はお前を絶対に許さない! タラゴナ皇室――お前が一番の敵だ!」

「――逃げられたようね」

 ユージェニーの額には汗が浮かんでいた。彼女はその汗を乱暴に手で拭うと、床の上に転がっていたアイラの指輪を拾い上げた。

 床の上に座り込んでいるべリンダは、激しく肩で息をしている。

「呪文ひとつで魔方陣を冥界への入り口に書き換え、死者の番人を呼び出すなんてやっぱりわたしには無理だよ」

「だから半分引き受けてあげたのでしょ?」

 ユージェニーはアイラの手のひらに指輪を落とした。真っ黒に焦げたそれは、もう使い物にならない。カーラに新しいものを作ってもらわなければ。

「……わたしこそあなたを許せない」

 小さな声でエリーシャはつぶやく。エリーシャの肩を抱こうとしたダーシーの手は、そのまま下に落ちた。
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