後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 クッションに顔を押しつけたまま、エリーシャは何かを口にする。
 
 それは、おそらく元婚約者の名前だったのだろうけれど――誰もエリーシャに不用意に近づこうとはしなかった。

「……ジェンセン」

 クッションを押しやったエリーシャは、アイラの父の名を呼ぶ。

「ユージェニー」

 続いて呼ばれたユージェニーは姿勢を正した。

「二人で、新しい屋敷に結界を張ったらどうなるの? 内部にいる者の安全は保障できるかしら」

 ジェンセンとユージェニーは顔を見合わせた。

「……期間はどのくらいいただけるのですか」
「一月」

 エリーシャの回答は明快なものだった。

「皇都から二週間ほど行った場所にアディリアという場所があるのは知っているかしら?」

「ダーレーンとの国境近くですな。確か、エリーシャ様個人の領地では? 屋敷もお持ちでしたね」

 ジェンセンが言うと、エリーシャはにこりとした。話をさっさと進められるのが気に入ったらしい。
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