後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「父さんが運ぶって。だから床に転送用の魔法陣を描かされたの」

 先日の襲撃でだめになってしまった本もあるけれど、大部分は無事だ。無事なものは、エリーシャの隠遁地であるアディリアへと運ばれる予定だ。

「……しかたないわね。ダーシーのところにでも行ってくるわ。アイラ、ついてきて」

 ブラウスにベルト、裾を絞ったズボンといういつもの気楽な格好で、エリーシャは皇女宮を出る。後宮内にある客人の滞在用の区画に入ると大きな池の側へと向かった。

「……どうなさいましたか?」

 ダーシーは、床に直接置いたクッションに腰を下ろしてのんびりとくつろいでいた。エリーシャはむくれた様子で、彼の向かい側に座る。

「荷物をまとめるのに邪魔だからって」
「つめたところからひっくり返してたらいつまでもまとまりませんよ、エリーシャ様」

 その場を見ていたようなダーシーの言葉にエリーシャは目を見張る。

「見てたの?」
「想像です」

 けろりとした顔で言うと、ダーシーは飲み物を勧めた。アイラは少し離れた場所に控えて、二人の様子を眺めている。
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