後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「あなたまでついてくる必要はなかったのに」

 お茶のカップを手に、エリーシャは小さな声で言う。先日の襲撃から、エリーシャは少しばかり元気を失っていた。元の婚約者が生きていた――というより生き返った、ということを知ったショックからなのだろうと誰もその点には触れようとしなかった。

「逃げても、誰も文句は言わない……それでも?」
「……わたしも父の敵をとりたいと思っておりますから」

 お茶のカップから視線を上げたエリーシャと、ダーシーの目が交わる。なんだか見てはいけないものを見たような気がしてアイラは視線をそらした。

「セルヴィス殿下が皇位を返さない、と言ったらどうするおつもりなのです?」

「……それならそれでかまわないわよ。あの子は馬鹿で考えなしのところがあるけれど、傲慢ではないものね。周囲の人たちの意見をちゃんと聞けるのなら、国をうまく治めることもできるでしょう」

「……傲慢になったら?」
「その時はその時ね。皇位を取り戻すわ――どんな手を使っても。皇位を完全に返上したわけではないんですからね!」

 エリーシャは顔の前で指を振って見せた。

 いくらか元気になったエリーシャの様子を見て、ダーシーは微笑む。
 なんだろう、ダーシーの雰囲気が以前とは変わったような気がする。側で見ているアイラの方が落ち着かなくなって、もぞもぞとした。
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