後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「今、明かりをつけますね」

 アイラはランプをともした。研究室中がぼうっと明るくなる。

「――恐ろしい数の本ね」

 エリーシャは研究室中をぐるりと見回した。出かける前にアイラが片づけたから、いつもよりはだいぶましだ。今日、父が戻ってきた気配もない。

「元、宮廷魔術師だったそうですからね――宮廷をやめてからも、研究だけは続けてました」
「――でしょうね。でも、困ったわ。まさかここまでとは思わなかったもの」

 エリーシャは困惑した様子で、書物の並んでいる棚に手を置く。指を滑らせて、一冊一冊、書物の背表紙を確認していく。

「ここにくれば、すぐに見つかると思ったんだけど――」
「何をお探しなんです?」

 エリーシャは書棚からくるりと振り返った。

「うん、ある魔術を探しているの。この研究所の本棚の中にあるとは思ったんだけど――」

 うんうんと考え込みながら、エリーシャは書棚の書物を一冊ずつ出して中をめくっては戻していく。

「……決めた」
「何ですか?」
「この部屋の書物、全部持って行くわ!」
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