後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 アイラはぽかんと口を開けた。

「困ります、それは――」

 父が帰ってきた時に、研究所が空になっているのは困る。

「大丈夫、ちょっと借りるだけだから。ジェンセンが戻ってきたらちゃんと返すし――」

 アイラの言葉には耳も貸さず、エリーシャは素早く全ての本棚を確認していった。

「うん、やっぱり全部持って行くわ!」
「……困ります……」

 アイラの抵抗は、エリーシャによって完全に無視されたのだった。

† † †

 これは強奪ではないのだろうか。

 翌日には研究所中の書物を皇女宮に運ばせると言っているエリーシャの後からアイラはとぼとぼとついていく。

 夜の町は、まだ人がたくさんいた。酔っぱらいたちが行き来している様を、エリーシャはわくわくした様子で見ている。

「ねぇ、アイラ。あの店に寄っていかない?」
 エリーシャが一軒の店を指した。
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