後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 おそらく、その一つ一つを作るのに、魔術師たちは必死の努力を払ったはずだ。

「それなら、魔術研究所を皇宮から離れたとこに作ればよかったのに」
「おまえは馬鹿か」

 ライナスの口から出る一つ一つの言葉は短いのに、鋭い。怖がらなければならない相手でもないから、アイラも思いきり頬を膨らませるに留めておいた。

「この国で一番安全なのはここだろうが」
「そりゃまー、そーですけどねー」

 棒読みな返事なのは、アイラ自身がそれをよくわかっているから。

 国精鋭の騎士に守られ、有力な魔術師たちが集まるこの皇宮が一番安全な場所だろう。他国の密偵が入る隙もないに違いない。

「……ここだ」

 ライナスは、一つの扉の前にたどりつくとそこを叩いた。

「どうぞぉ」

 中からはやけにのんびりとした声が返ってくる。
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