後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 彼は、エリーシャの母方の従兄弟にあたる青年だった。年はエリーシャより二歳上。二年前に惨殺死体で見つかった。

 当時、エリーシャとの婚約を望む者は国内外に多数いたからその中の誰かではないかと噂されたのだが、結局犯人は見つかっていない。
 
 話を聞いて、当時たいそうな騒ぎになったことをアイラも思い出した。
 
 皇族の結婚問題なんて、アイラの世界から遠いところにあったからすっかり忘れ去っていたが。

「あれから何度もご婚約の話は持ち上がっているんだがな、エリーシャ様はどうしても受け入れようとはなさらない」

 イヴェリンは細い縁の眼鏡に指をやって嘆息する。

「お二人は愛し合っていらしたから――まだ忘れられないのだと思うわ」

 いそいそと新しいお茶を用意しながらゴンゾルフが返す――この言葉遣いが男女逆転した夫婦のやりとりにもだいぶ慣れてしまったのは、後宮に馴染んだということなのだろうか。
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