後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
「ゴンゾルフはね、本当は菓子職人になりたかったらしいわよ。皇女近衛騎士団の官舎に菓子屋が使う巨大なオーブンを備え付けたんだって」

 ほどよい焼き色のついたクッキーを、エリーシャは口に放り込んだ。

「わたしもご馳走になりましたが、おいしかったです」

「ああ、ゴンゾルフに呼ばれたって? 最近何してるかって聞かれたんでしょ?」

 アイラは苦笑いした。

「まあそんな感じです。父の本を気にしていましたよ。何でしたら魔術師を入れてはどうかと――女性の魔術師に知り合いはいないそうですが、手配はできる、とのことでした」

「……別に、他の人に手伝って欲しいわけじゃ……だって、まだ証拠が見つかったわけじゃないから」

 珍しくエリーシャが口ごもって視線を落とす。

「でも、父の研究していた何かが欲しかったのでしょう、エリーシャ様? わたしをお側に置いたのも、わたしが何か知っているんじゃないかって期待したからではないですか?」

「……それは否定しないけれど。お茶、もらえる?」
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