後宮に売り飛ばされたら皇女を押しつけられました
 本の間に座り込んだエリーシャはアイラの手渡した紅茶のカップを手で抱え込んだ。こんな場所だから、ソーサーはテーブルの上に放置したままだ。

「うまく言えないんだけどね、アイラ」

 紅茶の香りを楽しむようにカップに鼻を寄せてエリーシャは言った。

「近頃、国内貴族の一派に怪しい動きがあるのよ――どう怪しいのかってあなたに説明するのは難しいけど」

「エリーシャ様を廃そうとしてるとか、セルヴィス様を暗殺しようとしているとか、そんな感じですか?」

 ははっとエリーシャは笑う。

「わたしたちが廃されたり、暗殺されたりするくらいですむならいいんだけどね――それでも皇位を得るのは難しいわよ。継承権を持っている人間はたくさんいるし――例えば、ライナスとフェランもそうね」

「そうなんですか?」

「うん、でもまあ、彼らが皇位を得ようと思ったら、その前に控えている百人くらいをどうにかしないといけないけどね」

 それはともかく、とエリーシャは話を戻した。
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