愛しのケダモノ王子
その時。
羽山はぐいと私の身体を引き寄せて、腰に腕を回した。
ほんの一瞬の出来事だったのに、まるでスローモーションのようだった。
羽山の顔が近づいてきたかと思ったら、唇が重なる。
熱く柔らかい感触が、唇から全身へと、電流が走るように駆け抜けた。
『…へへ』
唇が離れると、羽山は照れくさそうに笑っていた。
『なぁあきら、俺…』
バシッッ!!!
私は思い切り、羽山の頬を叩いていた。
『……バカ!最低!!』
それだけ言うと、その場から逃げ出すように走った。
走りながら、何故か苦しくて切なくて涙が出た。
何で涙が出るのかさっぱり分からなかったけれど、
私はわんわんと子どものように泣いた。
それから羽山とは、一切口をきかなかった。
そんな状態のまま卒業して、羽山はK大へ、私はJ大へと進学し、
それっきりだった。