ティーチ?
昨日よりも軽い気持ちで、社会科準備室のドアをノックする。

どうぞ、と中から声が聞こえて、私はドアノブを回した。



「……あ、篠岡さん」

「えへへー、さっそく来ちゃいました」



頬をかいてそそくさと室内へ足を入れた私に、宮内先生は小さく笑みを浮かべながら「どーぞお掛けください」と昨日と同じパイプ椅子を指し示した。

お礼を言って、私はそれに素直に腰をおろす。



「……昨日も思ったけど、ここ、コーヒーのにおいがする」

「え? ああ、僕がいつも飲んでるから」



一瞬きょとんと目を瞬かせた先生は、向かっていた机の上にあった赤いマグカップを持ち上げて見せた。

まだ湯気のたっているその中身は、私は少し苦手な、真っ黒な液体で。



「ブラックコーヒー……大人だ……」

「ふふ、大人だからね」



私の呟きに宮内先生は軽く笑って、それからくるりと、座っていた回転式の椅子をこちらに向けた。
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