ティーチ?
は?、と、思わず声が出そうになってしまった。

……“彼女”? ……“たち”?



「オーイ、『彼女たち』とかゆーなよ。まるで俺が二股かけてるみたいだろ」

「いやいや、実際そうだろ」

「ちっげーよ、どっちとも付き合ってるわけじゃねぇし」

「うわムカつく、あんなカワイイ子たちつかまえといて」

「そーそー」

「いやいやいや、俺がつかまえたんじゃなくて、向こうから寄ってきてくれたんですよ」

「うっぜー! いっぺんくたばれプレイボーイ!!」



友人の言葉にきつっ!なんて笑いながらも、鎌田が話し続ける。



「でもま、サチちゃん、ほんとウブでかわいいし。『校内用』としてはいいかもなぁ」

「うっわ、ひでー! やっぱおまえ死んでくれ。頼むから1度死んでくれ」



またどっと笑いがおきたところで、俺はくるりと回れ右をした。

そのまま北階段とは反対の方向に、歩きだす。



《調理実習で作ったクッキーを持ってったら、先輩よろこんでくれて──》

《本当は、こんなのじゃ全然足りないんだけど……私の気持ち、です》



──ああ、今の俺は、どんな表情をしているのかな。

いろんな気持ちが、ごちゃまぜになって。

どうしようもなく俺は、先ほどまでよりもっと強い力で、自らのこぶしをきつく握りしめた。
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