ティーチ?
心配そうな声でそう言いながら、俺のひたいに手を伸ばしてきた篠岡さんに。



「……ッ、」



ほとんど無意識で、俺は大袈裟なくらい、バッと勢いよく身を引いた。

目の前には、驚いたような表情で固まる、篠岡さんの姿。

──しまった、と。また頭の中で、冷静な俺が呟いた。



「あ、いや……ごめん、篠岡さん。でもほんとに先生は、大丈夫だから……今日はもう遅いし、暗くなると危ないから……篠岡さん、そろそろ帰った方がいいよ」

「……え、あ、はい。えっと、遅くまで、すみません、でした」

「いえいえ。気をつけて帰ってください」

「はい。さようなら、宮内先生」

「うん、さようなら」



右手を上げた俺にぺこりともう1度頭を下げて、篠岡さんは資料室を後にした。

残された俺は、机に両肘をついて、くしゃりと髪を乱し頭を抱える。



「……まずった……」



伸ばされた手を避けたときの彼女が、なんだか、今にも泣き出しそうな表情をしていた気がして。

小さく呟いた俺の声は、ひとりきりの室内に溶けて消えた。
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