ティーチ?
「……篠岡さん? どうかした?」



身体の前でかばんを両手で握りしめ、うつむいたままの彼女に、椅子から立ち上がった俺はそう声を掛けながら近づいた。

いつもなら、顔を合わせてすぐ「こんにちは!」などと元気な挨拶をしてくれるのに。

だけど室内へ足を踏み入れてはいるものの、いっこうに顔を上げようとはしない篠岡さんに、俺は違和感を覚える。

何かあったのだろうかと、そのうつむけた顔を覗き込もうとすると。



「せん、せい……」



そのしぼり出すような弱々しい声に、どきりとして。

そしてようやくこちらに向けられた瞳いっぱいにたまった涙を見つけ、俺は瞠目した。



「しの、」

「……ごめん、なさい」

「え?」



小さく呟かれた言葉を拾って、思わず聞き返す。

とうとうポツリと一粒、彼女の頬を涙が伝った。
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