ティーチ?
空いていた左手を彼女の後頭部にまわし、そのまま押さえ付ける。

顔の角度を変えて口づけを深くすると、それまで呆けていた篠岡さんが、ようやく動きを見せた。



「……んっ、」



抵抗するように、小さな両手が俺の肩を掴む。

その手の感触と、彼女の甘い声に、ハッとして。

俺は唐突に、唇を離した。



「……ッ、」

「……せん、せい……?」



少し下からこちらを見上げる、篠岡さん。

その顔には、ありありと、困惑の表情が浮かんでいて。


──ああ、俺は。

取り返しのつかないことを、してしまった。



「せん……」

「ごめん、篠岡さん。今すぐこの部屋から、出て行ってくれるかな」



え、と彼女の唇が、疑問を形作る。

俺はそれすらも、まっすぐに見れなくて。



「ごめん、本当にごめん。今の俺本当どうかしてるから、だから早く、出てって」



ほとんど無理矢理篠岡さんを立ち上がらせて、ドアの方へと歩かせた。

ドアを開け、まだ何か言いたげにこちらを見上げる彼女に、かばんを押し付ける。



「あの、宮……」

「──ごめん」



駄目押しのように呟いて、ドアを閉める。

彼女はしばらくドアの前で立ちすくんでいたようだけど、ようやくその場から去っていく足音がして、俺は深く息を吐いた。

ドアに背をつけたまま、ずるずると、再び床に座り込む。



「……あーあ、」



俺、こんなに恋愛下手じゃなかったはずなんだけどなぁ。

職場であるこの社会科準備室でそんなことを考える自分が可笑しくて、なんだか、笑えた。
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