ティーチ?
100点になったら
「――ち、沙知っ!」



強い口調で自分を呼ぶ声にハッとして、私は思わず肩をはねさせた。

見ると、教室の自分の席でぼんやりしていた私の目の前に、なぜか呆れ顔の綺里ちゃんが仁王立ちしている。



「き、綺里ちゃん……どうしたの?」

「どうしたの、じゃない。さっきからあたし、何回も沙知に話しかけてたのよ?」

「えっ」



ため息混じりの綺里ちゃんの言葉は、とても冗談には思えない。

彼女の呼びかけに全然気づかずにいた自分に少なからずショックを受けながら、苦笑を浮かべて綺里ちゃんを見上げた。



「ごめんね、綺里ちゃん。何か用だった?」

「いやまあ、用ってほどのものでもなかったんだけどさ」



言いながら苦い顔をした綺里ちゃんは、こちらをうかがうように中腰になった。



「……沙知さ、なんかあった?」



低く訊ねたその言葉に、私は驚いて目をまるくする。

同時に、心臓が大きくはねた。



「え、ど、どうして?」

「なーんか沙知、今日元気ないっていうか、ぼーっとしてるし。何か悩みでもあるのかと思って」

「そ……」



とっさに、そんなことないよ、という言葉が口をつきかけたけど、声にならなかった。

そう言われて自覚するくらいに、今日の自分は考え事をして、ぼんやりしてしまっていると思ったから。

だから私はまた苦笑して、綺里ちゃんの整った顔を見つめる。



「ごめんね、綺里ちゃん。大丈夫だよ」

「……そう」



私のせりふに、これ以上深く追及して欲しくないという思いを感じとったのか、綺里ちゃんは釈然としない表情で、それでも頷いた。

私は彼女の気遣いに感謝しながら、自分の席へと戻る綺里ちゃんを見送ってゆっくりと次の授業の準備を始める。

……宮内先生が教える、世界史の授業の。
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