ティーチ?
と、そこまで言って顔をあげた私は、思わず目をまるくした。

だって、視線の先の、宮内先生が――満面の笑みで、私を見下ろしていたから。



「……うん、そっか」



なんだかひとりだけ、何か納得したような呟きをもらして。

先生は、今度こそ私の頭に右手を乗せた。

ぽん、ぽんと、やさしく撫でるように叩く。



「せ、せんせ……?」



私は、ドキドキ、心臓の音が鳴り止まなくて。

やっぱり先生は、笑顔でそんな私を見つめていた。



「篠岡さん。とりあえず俺は、教室戻るけど、」

「は、はい」

「篠岡さんはよかったら、社会科準備室で休んでなよ。鍵、開いてるはずだから」

「へ……」



思いがけないその提案に、私はつい間抜けな声をもらしてしまった。

いや、声だけじゃなくて、表情も、そんな顔をしていたかもしれない。



「それじゃあね、篠岡さん。……またあとで」



去り際に、また先生は、私の髪を撫でて。

呆然をする私を残して、今度こそ、この場を後にした。


『またあとで』って、ことは。今日の放課後も、社会科準備室でお話できるということなのかな、とか。

宮内先生って、自分のこと『俺』って呼んでたっけ?とか。

私に触れた先生の手が、まるで大事なものを扱うように、やさしかったこととか。

考えることは、いろいろあるんだけど。


とりあえず私は、自分の両頬に手をあてて。

早くこの熱が冷めるようにと、ぎゅっと目を瞑っていた。
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