ティーチ?
ふぅん、とそれほど興味があるようにも見えない様子であごに手をあてていた綺里ちゃんは、だけどもあっさり、その匙を投げ出して私を見た。



「……まあ、何にしろさ。あたしは、絵にかいたようなさわやかスポーツ少年にベタに恋する女の話を聞くなんてかゆいことまっぴらごめんだから」

「そんな……!」

「だから恋の相談なら、別の適切な誰かにすることね」



そう言って音をたてながらバナナオレを飲みきった綺里ちゃんのとなりで、私はぼんやりとグラウンド上の鎌田先輩を見つめる。

……確かに、いつまでもこうやって見てるだけじゃ、先輩と私の間に何も起こったりなんかしない。

この不確かな感情は、動かない。

それならば、向こうが苦手だろうがなんだろうが知ったこっちゃない。綺里ちゃんいわく“適切”らしい宮内先生に、1度相談してみよう。



「あたしの方は大丈夫よ。いつでも、慰めパーティーをする心の準備はしておくから」

「………」



このツンツン女王様よりは希望のある助言を、期待して。

──そして私は、その日の放課後開けたのだ。

宮内先生がいつもいるという、社会科準備室の、扉を。
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