とべない鳥
『別に笑わそうとしたんじゃないし』
また自分の顔が赤くなるのが分かった
「まぁ間違ってもないけど」
『意味分かんね』
「俺の居るとこじゃ俺が一番長く居る」
『あんたさ…』
「俺はあんたって名前じゃないんだけど」
『俺って言うの似合わないよな』
「無視かよ」
『初め僕って言ってたし』
「別にいいだろ」
『まぁね』
屋上の表示が見えた
『あんた、どこまでついて来る気?』
立ち止まって睨んで男に聞いた
「お前が俺の名前を呼ぶまで?」
満面の笑みで答えやがった
『あっそ』
また歩き出した
「俺はユウダイ、病室はお前の1つ下の階」
勝手に自己紹介し出した男、改めユウダイを無視して屋上への扉を開いた
「なぁお前は?」
屋上に出て手すりの方まで歩いて行く私の後を追って訪ねるユウダイ
『答える義理はない』
後ろにいるユウダイに答えずに言った
「カナ…って呼ばれてたよな」
いつの間にか横にいた
『要だよ』
諦めて答えた
「カナメね、字は重要の要?」
『他に字あるかよ』
溜め息混じりに答え、手すりにもたれてしゃがむ
「要か…良い名前じゃん」
そんなこと言われたのは初めてだった
『そんなことねぇよ、よくある名前』
そう言うとユウダイはどこかに歩いて言った
『なんだ、あいつ』
私は立ち上がり、手すりの向こう側を見た
ちっぽけな街が見下ろせた
遠くの方に山がいくつもあった
『海見えねぇかな』
呟いてみると、首筋に冷たい感触がして後ろを振り向いた
「もっと向こうまで行かないと海は見えないよ」
『なんだ、あんたか』
ユウダイがいた
「ほら」
ユウダイがイチゴ牛乳のパックを差し出してきた
素直に受け取る
「首に冷たいもの当てられたら驚かない?」
『別に』
ストローをさして飲む
『甘っ』
普段飲まない様な甘い飲み物
「驚かせがいがない」
残念そうに言った
『そりゃ残念でした』
「まぁいいや、その内驚かしてあげるよ」
『そりゃ期待しとく』
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