君を守る陰になりたい【Ansyalシリーズ 憲編】
20.思わぬ休暇 -紀天-
「お疲れ様でした」
ツアー最終日。
打ち上げを終えて会場を後にする。
「んじゃ、お疲れさん。
雪貴、帰るぞ。
祈も乗ってくか?」
「有難うございます。
託実さん、僕は大丈夫です。
明日の朝一の新幹線で、福岡に飛んで家族と合流します」
「そうかっ……」
「お疲れ様でした。お先に失礼します」
祈を会場前から見送った後、「紀天、行こうか?」っと言う、
十夜の声に「あぁ」っと頷いた。
歩き出した先には、真っ白な大きなリムジンが滑り込む。
停車したリムジンの後部座席を開けると、
アイツは車内へと身を滑らせ、俺もそれに続く。
「これから瑠璃垣の仕事か?」
「まぁな。
二足の草鞋させて貰ってるからな」
「二足って、お前三足だろ。
そろそろ体、一つしかないこと自覚しろよ」
「やりたいことが沢山あるんだ。仕方ないだろ。
それに勝手なことさせて貰ってるんだ。
こっちの仕事も、きっちりとやっておかないとな。
早朝、オレは香港支社に発つ。
三日後に日本に戻るから、その時に空港まで迎えに来てくれ。
それまでは、紀天は休暇でも満喫してろ」
そう言う十夜。
「俺も行くよ」
「過保護もたいがいにしろよ。
そんなんじゃ、晃穂ちゃん何時までたっても捕まえらんないだろ。
だから女心、わかってないって言うんだよ。
それに今回は、紀天が香港に来ても出来る仕事はない。
だから日本に置いてく。
帰ってくるまでに、晃穂ちゃんと会って来いって。
……姉ちゃんなんだろ……」
さり気なく、アイツが呟いた言葉がこんなにも嬉しくさせる。